「読売新聞」(2022年1月25日)の「今を語る」に「『世間』が生み出す同調圧力」が掲載されました。
投稿者 : 佐藤直樹
「読売新聞」(2022年2月25日)「くらし家庭面」の「今を語る」のコーナーに、「『世間』が生み出す同調圧力-『謎ルール』『空気』 従わず変化促す-」という表題で、インタビュー記事が掲載されました。
聞き手は、生活部の竹之内知宣記者です。
https://www.yomiuri.co.jp/life/20220124-OYT8T50156/
http://satonaoki.sblo.jp/article/189293668.html
内容はほぼ以下の通りです。
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終息が見通せないコロナ禍で、自粛を求められる暮らしが続く。息苦しさの原因はマスクだけではないようだ。九州工業大名誉教授で評論家の佐藤直樹さんは、同調圧力を生み出す「世間」の影響を指摘する。世間とは何かを聞いた。
●「世間」が生み出す同調圧力
●「謎ルール」「空気」 従わず変化促す
推奨されてはいるが、強制されているわけでも義務でもないのに、ほとんどの人が常時マスクをつけて生活をしています。
なぜか。感染防止意識が強いだけではありません。日本には「法のルール」の前に「世間のルール」が存在し、この「世間」が同調圧力を生み出しているからです。
日本では多くの人が、「世間に迷惑をかけないことが大切だ」と刷り込まれて育てられます。だから、政府や自治体による強制力のない要請であっても、空気を読んで、自主的に従います。
《世間が許さない、世間体が悪い。日本では普通に使われている「世間」という言葉を、英語に訳すのは難しいという》
日本特有のものだからです。世間は、法のルールに従うことで成り立つ自律した個人の集合体である「社会(society)」とは異なります。そもそも日本には、そうした西欧流の「社会」は成立しておらず、世間には自律した個人も存在していないと考えています。
世間とは、「日本人が集団になった時に発生する力学」と定義しています。同質性を求める世間は、治安の良さにつながるなどのプラス面もあります。東日本大震災の直後、被災者の秩序を守った行動が世界から称賛されました。
しかし、グローバル化や新自由主義の影響もあり、世間のあり方が変容していきました。そして、未曽有のコロナ禍による不安から、世間の持つ同質性の強さと相互監視という負の側面が一気に顕在化しました。緊急事態宣言のもとに登場した、外出する人や営業する店を監視し批判する、いわゆる「自粛警察」がその象徴です。
《古くは万葉集に詠まれるなど、世間という言葉は1000年以上前から存在する》
長い歴史を持つ世間では、「友引の日に葬式はしない」など、たくさんのルールが作られてきました。それがたとえ合理的な根拠のないものであったとしても、多くの人は律儀にこれらを守ることで秩序を維持してきました。しかし、やっかいなことに「世間のルール」は明文化されていませんし、その輪郭もはっきりしていません。
地域のつながりが減少し、目に見えない仮想化した世間では、何が批判されるのかもわからない。過度にお互いの心中を察し、「空気を読め」と要求されます。
共感過剰シンドローム(症候群)と呼んでいます。会議で周囲と違う意見が言えない、終業時間になっても同僚が仕事をしていれば帰宅しにくい。「自分は自分、他人は他人」と考えることができません。
逆に、空気を読まず、ルールに従わない人は「迷惑な人」であり、バッシングしても構わないという心理を正当化しやすくなります。異論や少数意見を許さない、息苦しい同調圧力が生まれます。コロナ禍で、「感染よりも世間の目が怖い」という声を耳にした人も多いのではないでしょうか。
《連綿と続いてきた世間が無くなることはないという。では、どうすればいいのか》
まずは、コロナがあぶり出した「世間」の中で自分も暮らしていることを自覚する。同調圧力を生み出す正体に気づけば、どう向き合えばいいのか分かるので、気持ちもだいぶ楽になります。会社や学校などの一つの世間にとらわれず、趣味のサークルなど複数の世間と緩やかにつながることも大切です。
そして、過度に同質性や長幼の序を重んじた、合理的な根拠のない世間の「謎ルール」をなくしていく。空気を読んでも、必要がなければ、あえて従わない。場の空気を乱すことを恐れずに発言する。こうした積み重ねが世間のありようを変え、風通しをよくしていくと思います。
(聞き手・竹之内知宣)